収益物件の販売図面に大きく書かれている「利回り」は、まだ何も引かれていない数字です。
そこから何を引くのか、最後に何を見て判断するのかを、順番にご説明します。岡山市内で実際に売りに出ていた一棟アパート3件で、計算して比べた結果も載せています。
この記事は、こういう方に向けて書いています。
- はじめて一棟物件を検討している
- 利回りの数字をどこまで信じてよいか分からない
- 複数の物件を比べたいが、比べ方が分からない
- 他社から紹介された物件が妥当か、確かめたい
販売図面をお持ちいただければ、この記事と同じ方法で一緒に計算します。当社で取り扱っていない物件でも構いません。
利回りには2種類あります
販売図面に載っているのは、ほとんどが表面利回りです。
例)購入価格 2,400万円 / 年間家賃 260万円
260万円 ÷ 2,400万円 = 10.8%
ここには、固定資産税も、管理費も、修繕費も、まだ1円も引かれていません。つまり「売上」の段階の数字です。
実際に手元に残る割合を見るのが実質利回りです。
運営費には何が含まれるか
| 項目 | 年間の目安 | 内容 |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 15万〜35万円 | 毎年かかります。構造で差が出ます |
| 管理委託料 | 家賃の5% | 入居者対応・家賃集金を任せる場合 |
| 修繕積立 | 家賃の10% | 屋根・外壁・給排水。築30年超ならこれ以下にしない |
| 原状回復・募集費用 | 退去1戸 15万〜30万円 | クロス・清掃・仲介手数料・広告料 |
| 火災保険・地震保険 | 5万〜8万円 | 木造か鉄骨かで変わります |
| 共用部の電気・水道 | 3万〜6万円 | 階段の照明、共用の水道 |
| 合計 | 家賃収入の30〜37% | — |
目安としてはこうなります。
表面利回り 8% → 実質利回り 5%前後
おおよそ3分の2になるとお考えください。運営費の重い物件では、表面利回りの順位が実質で逆転することもあります。
見落とされやすい費用
浄化槽(下水道が来ていない地域)
管理料と法定清掃費で年8万円前後。さらに将来、下水道に接続するときは受益者負担金と宅内工事で50万〜100万円かかります。
プロパンガス(集中方式)
ガス会社が設備を無償で貸している場合があります。便利な仕組みですが、解約するときに違約金が発生することがあります。契約書の確認をおすすめします。
駐車場の台数
岡山では車が必要です。8戸に3台しかない物件と、9戸に9台ある物件では、募集のしやすさがまったく違います。費用ではありませんが、空室率を通じて収支に効きます。
構造による固定資産税の差
同じくらいの規模でも、木造にくらべて鉄骨は建物の評価額が高く残ります。年20万円ちがうこともあります。
各戸の賃料や契約時期の確認については 岡山の収益物件 レントロールの読み方|数字のどこを疑うべきか をあわせてご覧ください。
積算評価 ― 下値を見る
利回りは「いくら儲かるか」を見る数字です。もう1つ、最悪いくらで売れるかを見る数字があります。それが積算評価です。
土地 = 周辺の取引事例による㎡単価 × 土地面積
建物 = 再調達原価 × 延床面積 ×(残存年数 ÷ 法定耐用年数)
建物の評価は、年数とともにゼロに向かいます
| 構造 | 法定耐用年数 | 再調達原価(岡山県) |
|---|---|---|
| 木造 | 22年 | 21.3万円/㎡ |
| 軽量鉄骨(骨格材3〜4mm) | 27年 | 27.8万円/㎡ |
| 重量鉄骨(骨格材4mm超) | 34年 | 27.8万円/㎡ |
| 鉄筋コンクリート(RC) | 47年 | 24.6万円/㎡ |
再調達原価は国土交通省「建築着工統計」の岡山県の実績値に基づく目安です。
築30年を超えた木造は、法定耐用年数の22年を過ぎているため建物の評価はゼロになります。つまり積算=土地値です。
価格が積算の何%かを必ず計算してください
| 価格 ÷ 積算 | 意味 |
|---|---|
| 100%以下 | 土地値以下で買えている。最悪でも土地値で逃げられる |
| 100〜130% | やや上。収益が出ていれば許容範囲 |
| 150%以上 | 差額が「収益力」だけで乗っている。築年数とともに消える部分 |
ここが一番大事なところです。
価格が積算の2倍という物件は、土地値との差額を「建物が家賃を生む力」で買っていることになります。ところがその建物は毎年古くなり、いずれ家賃も下がります。
売るときには、その差額の多くが消えています。表面利回りが高い物件ほど、この差が開いていることがあります。
建物の解体費も見ておきます
| 構造 | 解体費の目安(坪あたり) |
|---|---|
| 木造 | 3.5万〜4.5万円 |
| 鉄骨造 | 5万〜7万円 |
| 鉄筋コンクリート | 6万〜8万円 |
更地にして売る場合は、積算から解体費を引いた金額が手取りの上限になります。
マルチプルとIRR
利回りは「1年を切り取った断面」です。これに対して、買ってから売るまでの全期間をひとつの数字にするのが、マルチプルとIRRです。
| 測っているもの | ひとことで言うと | |
|---|---|---|
| マルチプル | 増えた絶対額 | 自己資金が何倍になって返ってきたか |
| IRR | 時間あたりの効率 | 年利に直すと何%だったか |
マルチプル(エクイティ・マルチプル)
保有中の家賃も、売却代金も、すべて足します。
時間はいっさい考えません。
| マルチプル | 意味 |
|---|---|
| 1.0倍未満 | 元本割れ。入れたお金より少なく返ってきた |
| 1.0倍 | 損も得もしていない |
| 1.5倍 | 自己資金が1.5倍になった |
| 2.0倍 | 倍になった |
この数字の良いところは、ごまかしが効かないことです。「いくら増えたか」がそのまま出ます。
IRR(内部収益率)
「この投資は、結局のところ年利何%だったのか」を表す数字です。マルチプルとの決定的な違いは、お金が戻ってくる早さを評価する点にあります。
同じ「5年で1.5倍」でも、こう変わります。
| お金の戻り方 | マルチプル | IRR |
|---|---|---|
| 売却時に一括(保有中の手残りゼロ) | 1.50倍 | 8.45% |
| 毎年均等に戻ってくる | 1.50倍 | 10.00% |
| 早い年に多く戻ってくる | 1.50倍 | 13.65% |
3つとも同じ1.5倍です。それでもIRRは5%以上ちがいます。理由は単純で、早く戻ったお金は、次の投資に回せるからです。
なぜ両方を見るのか
この2つは逆に動くことがあります。ある物件を、売値が同じまま何年持つかで比べてみます。
| 保有年数 | マルチプル | IRR |
|---|---|---|
| 3年 | 0.92倍 | ▲2.92% |
| 5年 | 1.07倍 | 1.49% |
| 10年 | 1.43倍 | 4.86% |
片方だけを見ると、こう間違えます。
- IRRだけを見る → 短期売買ばかりが良く見える。実際には売買の手数料と税金で手残りが消えます
- マルチプルだけを見る → 20年で1.5倍の物件が、5年で1.4倍の物件より良く見えてしまいます
何年で売るかを買う前に決めておく考え方は 岡山の収益物件 出口戦略の考え方|何年で売るかを買う前に決める にまとめています。
実際の物件で比べてみます
岡山市内で実際に売りに出ていた一棟アパート3件を、同じ方法で計算しました。物件が特定されないよう、名称・所在地は伏せています。
| A物件 | B物件 | C物件 | |
|---|---|---|---|
| 構造・築年 | 木造2階/築36年 | 木造2階/築35年 | 鉄骨3階/築37年 |
| 価格 | 2,890万円 | 2,380万円 | 4,580万円 |
| 稼働 | 6/9室 | 8/8戸 | 9/9戸 |
| 表面利回り | 8.33% | 10.96% | 11.17% |
| 実質利回り | 4.12% | 6.98% | 7.38% |
| 価格 ÷ 積算 | 94〜100% | 150% | 191% |
表面利回りだけを見ると、C物件が一番よく見えます。満室稼働で11.17%、角地、駐車場も全戸分あります。
ところが、価格が積算の191%です。土地値のおよそ2倍で、差額の2,000万円以上が「建物の収益力」だけで乗っています。
5年間持った場合の結果
| A物件 | B物件 | C物件 | 参考:投資信託 | |
|---|---|---|---|---|
| 投下自己資金 | 2,730万円 | 650万円 | 1,300万円 | 650万円 |
| 5年後の回収総額 | 4,356万円 | 693万円 | 1,238万円 | 791万円 |
| マルチプル | 1.60倍 | 1.07倍 | 0.95倍 | 1.22倍 |
| IRR | 10.74% | 1.49% | ▲1.19% | 4.00% |
A物件は指値2,550万円で取得し1年かけて満室化、B・C物件は表示価格のまま購入した場合の試算です。いずれも税引前。
順番が入れ替わります。
表面利回りでは C > B > A の順でした。
ところが5年後の結果は A > B > C と、完全に逆になります。
表面利回りが一番低かったA物件が、唯一まともな成績です。理由は、土地値で買えているからです。
投資信託と比べてみてください
表の右端に、同じ650万円を年4%の投資信託に5年置いた場合を並べました。
投資信託(650万円・5年)→ 1.22倍
同じ650万円なら、投資信託に置いておくほうが増えます。しかも手間がかかりません。
不動産投資は、管理の手間・空室のリスク・修繕・入居者対応を引き受けるものです。それらを引き受けない選択肢より高いリターンが出て、はじめて意味があります。C物件にいたっては元本割れです。
物件を見る順番
販売図面を受け取ったら、この順に確認してください。
| 見るもの | 何が分かるか | |
|---|---|---|
| 1 | 表面利回り | 物件の第一印象。ここで判断しない |
| 2 | 実質利回り | 運営費を引いた実態。おおよそ3分の2になる |
| 3 | 価格 ÷ 積算 | 下値はどこか。150%を超えたら慎重に |
| 4 | 年間キャッシュフロー | 返済後、手元に毎年いくら残るか |
| 5 | マルチプル | 売却まで含めて、最終的に何倍になるか |
| 6 | IRR | 年利に直すと何%か |
| 7 | 定期預金・投信との比較 | そもそも、やる意味があるか |
多くの資料は1と2で止まっています。4以降まで出すと、判断がはっきりします。
キャッシュフローの試算は 不動産投資 かんたん計算ツール でその場で計算できます。
築年数と融資について
築古物件を検討されるときに、必ず確認していただきたいことが3つあります。
法定耐用年数を超えると、融資が短くなります
木造なら22年、重量鉄骨なら34年を超えた物件は、金融機関の融資期間が10〜15年程度に短くなるか、土地の評価分しか出ないことがあります。返済期間が短いと、毎月の返済額が上がり、手元に残るお金が大きく減ります。
利回りが高く見える築古物件は、現金に近い買い方ができる方向けとお考えください。
減価償却は「節税」ではなく「繰り延べ」です
耐用年数を超えた物件は、簡便法により4〜6年で償却できます。所得の高い方には大きな効果がありますが、売却時には簿価が下がった分だけ譲渡所得が増えます。
恒久的に残るのは、所得税率と譲渡所得税率の差の部分だけです。「節税になります」とだけ説明する資料には、ご注意ください。
「税込価格」と書かれていたら
売主が課税事業者の場合、建物部分に消費税が乗っています。2020年10月の改正で、居住用賃貸建物の消費税は仕入税額控除ができなくなりました。課税事業者であっても戻ってきません。金額を必ず確認してください。
現地で確認していただきたいこと
- 前面道路 ── 公道か私道か。私道なら持分と、通行・掘削の承諾書があるか
- 駐車場 ── 戸数に対して何台あるか。岡山では募集を大きく左右します
- 排水 ── 公共下水か浄化槽か
- ハザードマップ ── 洪水・津波・土砂災害。重要事項説明の対象です
- レントロール ── 各戸の賃料・契約日・契約期間。直近の成約賃料が分かります
- 修繕履歴 ── 屋根・外壁をいつ直したか。次の大規模修繕がいつ来るか
レントロールは必ずお取り寄せください。
満室の物件でも、その賃料が10年前からの据え置きなのか、直近の成約価格なのかで、評価はまったく変わります。前者なら値上げの余地があり、後者なら伸びしろはありません。
買付を入れる段階の進め方は 岡山の収益物件 買付証明書の書き方と出すタイミング をご覧ください。
まとめ
- 表面利回りは、まだ何も引かれていない数字です
- 運営費で家賃の30〜37%が消えます。実質はおおよそ3分の2になります
- 価格が積算の何%かを必ず計算してください。ここが下値です
- マルチプルは「何倍になったか」、IRRは「年利何%か」。必ず両方を見ます
- 最後に、定期預金や投資信託と比べてください。手間を引き受ける対価が出ているかどうかです
販売図面をお持ちいただければ、一緒に計算します
当社で取り扱っていない物件でも構いません。
実質利回りとその内訳、積算評価、融資条件ごとのキャッシュフロー、
5年・10年のマルチプルとIRR、指値の根拠までお出しします。
「買ったほうがいい」とお勧めすることはありません。
見送るべき物件であれば、そう申し上げます。
☎ 086-238-1750
よくあるご質問
Q. 表面利回りと実質利回りは、どのくらい違いますか。
おおよそ3分の2になります。表面11%なら実質7%前後です。固定資産税、管理委託料、修繕積立、原状回復費、保険、共用部の光熱費で、家賃収入の30〜37%が消えるためです。運営費の重い物件では、表面利回りの順位が実質で逆転することもあります。
Q. 積算評価はどう計算しますか。
土地の評価額と建物の評価額を足します。土地は周辺の取引事例による㎡単価に土地面積を掛けます。建物は再調達原価に延床面積を掛け、残存年数を法定耐用年数で割った率を掛けます。木造は22年、重量鉄骨は34年、鉄筋コンクリートは47年です。築30年を超えた木造は建物評価がゼロになるため、積算は土地値と同じになります。
Q. 価格が積算の何%までなら買ってよいですか。
100%以下なら土地値以下で買えており、最悪でも土地値で売却できます。100〜130%は収益が出ていれば許容範囲です。150%を超えると、差額が建物の収益力だけで乗っている状態で、築年数が進むにつれてその部分は消えていきます。表面利回りが高い物件ほど、この差が開いていることがあります。
Q. IRRとマルチプルは何が違いますか。
マルチプルは回収総額を投下自己資金で割った倍率で、増えた絶対額を表します。時間は考えません。IRRは年利に直すと何%かを表す数字で、お金が戻ってくる早さを評価します。同じ5年で1.5倍でも、売却時に一括で戻る場合はIRR8.45%、毎年均等に戻る場合は10.00%、早い年に多く戻る場合は13.65%と変わります。この2つは逆に動くことがあるため、必ず両方を見ます。
Q. 築古物件は融資がつきにくいと聞きました。
法定耐用年数を超えた物件は、融資期間が10〜15年程度に短くなるか、土地の評価分しか出ないことがあります。返済期間が短いと毎月の返済額が上がり、手元に残るお金が大きく減ります。利回りが高く見える築古物件は、現金に近い買い方ができる方向けとお考えください。
Q. 減価償却による節税は、どのくらい効きますか。
法定耐用年数を超えた物件は簡便法により4〜6年で償却できるため、所得の高い方には大きな効果があります。ただし売却時には簿価が下がった分だけ譲渡所得が増えるため、これは節税ではなく繰り延べです。恒久的に残るのは所得税率と譲渡所得税率の差の部分だけです。

